2005年9月、World of Warcraftのレイドダンジョンで実装されたボスが使う呪文が設計ミスで拡散し、ゲーム内パンデミックが発生した出来事。その後、疫学者がこの事件を学術誌で取り上げ、仮想世界が感染症研究に役立つ可能性を示唆した。
2005年9月、World of Warcraftのレイドダンジョンで実装されたボスが使う呪文が設計ミスで拡散し、ゲーム内パンデミックが発生した出来事。その後、疫学者がこの事件を学術誌で取り上げ、仮想世界が感染症研究に役立つ可能性を示唆した。
何が起きたのか


Corrupted Bloodは、ボスの戦闘中にプレイヤーにかけられるデバフで、体力を徐々に削る効果を持っていました。この効果は本来、ハッカーとの戦闘エリア内だけで機能する想定でした。ところが、不具合によってこれがエリア外へ持ち出されてしまったのです。


パンデミックの仕組みと媒介経路
この「感染症」が実際のパンデミックのように広がった理由は、複数の媒介経路が存在したからです。ペットだけではなく、NPCも感染の担い手になりました。興味深いことに、NPC自身は死なない「無症状キャリア」のような状態になり、知らないうちに感染を広げていったのです。


さらに興味深いのは、プレイヤーの行動です。中には意図的に感染を広めようとするプレイヤーもいました。一方で、感染者を助けに向かうプレイヤーもいました。これは現実の流行時における人間の選択や判断を反映した現象として、後に研究者たちに注目されることになりました。
事態の急速な拡大と収束
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2005年9月13日 | ズルグラブとボスのハッカーが実装される |
| 2005年9月中旬~下旬 | 感染がダンジョン外へ広がり、都市部でプレイヤーが大量に死亡する |
| 2005年10月8日 | ペットがCorrupted Bloodにかからないようにする修正パッチが実装 |


学術界での注目と研究への発展
この出来事が単なるゲーム内のバグで終わらなかった理由は、それが現実の感染症の広がり方をかなり正確に反映していたからです。


フェファーマンはこの流行が「実際の病気にかなりよく似ていた」と述べ、従来の感染症モデルでは見落とされていた人間の行動要因に注目しました。バリサーはペットによる媒介を鳥インフルエンザになぞらえ、ゲーム内の高速移動を航空機による移動に例えました。つまり、ゲーム内のシミュレーションが現実の大規模な流行をモデル化するのに役立つ可能性があるということです。


社会的・安全保障的な側面
この事件は感染症研究だけでなく、テロリズム研究の視点からも注目されました。テロリズム研究者チャールズ・ブレアは、意図的に感染を広めようとしたプレイヤーたちの行動をテロ行為に該当する可能性があるものとして言及しました。つまり、この出来事は「大規模システムに対する意図的な有害行為」が実際にどのように行われ、拡大し、社会に影響を与えるかを示すケーススタディとなったのです。


2020年のコロナ禍での再注目
2005年の事件は、当時の疫学界では興味深い事例として扱われていましたが、それから15年後、世界が新型コロナウイルスのパンデミックに直面したとき、この「汚染された血」事件は再び大きな注目を集めることになりました。


当時のWoWプレイヤー数は650万人とされており、かなり大規模なコミュニティでの出来事でした。この規模感と、それでもなお観察できた人間行動のパターンが、現実の大規模流行との比較において説得力を持つようになったのです。
まとめ
「汚染された血」事件は、単なるゲーム内のバグから始まりました。しかし、その過程で見られた感染拡大のメカニズム、NPCなど非プレイヤーキャラクターの無症状キャリア化、意図的に病気を広めようとする者と助けようとする者の共存など、現実のパンデミックで起こることがほぼ正確に再現されていました。
これにより、ゲーム内の出来事が単なる娯楽の領域を超え、疫学やテロリズム研究などの学術分野にとって貴重な観察ケースとなったのです。2007年にLancet Infectious Diseasesなど学術誌で論文として発表されたことで、この事件は学問的な記録として定着しました。さらに2020年のコロナ禍を経験した今、この15年前のゲーム内パンデミックがいかに示唆深いものであったかが、改めて認識されるようになりました。
実は当時、ブリザードはサーバーをリセットして問題を「解決」してしまい、詳細なデータは残されませんでした。もしあの時点でデータが保存されていたら、疫学研究の資料としてさらに活用できたかもしれません。それでもなお、プレイヤーたちの証言やスクリーンショット、ログデータなどから十分な情報が学者たちに届き、仮想世界のシミュレーションの有用性を示す重要な前例として認識されるようになったのです。この事件は、ゲームが単なる娯楽を超えた社会的・科学的価値を持つ可能性を示す象徴的な出来事として、ネットゲーム史に刻まれています。
参考にした情報源
- NBC News: Gamers’ world offers clues to next epidemic (2007)
- Wikipedia: Corrupted Blood incident(一次資料への手がかり)
- PCWorld: World of Warcraft turns ten: 10 unforgettable moments
- ZME Science: The weird World of Warcraft pandemic of 2005
- ISPR: What a WoW virtual outbreak taught us about how humans behave in epidemics (2020)
本記事は上記の公開情報をもとに構成しています。会話部分は解説のための演出です。
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